マッチング理論で配属を最適化!人と部署のチカラを引き出す出会いの創出

「この人、あの部署に入れたのは正解だったのか…?」
配属の時期になると、人事部やマネジャーの頭をよぎる問いです。配属は1回きりのイベントではなく、その後のキャリアや成長、エンゲージメント、離職にまで長く影響する意思決定だからです。
本コラムでは、経済学の「マッチング理論」と「マーケットデザイン」の知見をベースに、MyStoryが提供する『ピープルアナリティクス』サービスの配属最適化についてご紹介します。数式の細かい説明は避けて、「現場にどう役立つのか」という視点を軸にお話ししていきます。
1. なぜ「配属最適化」がそれほど重要なのか
採用・育成に力を入れている企業ほど、「最後の配属」でつまずくとダメージが大きくなりがちです。
- 部署とのミスマッチからモチベーションが上がらない
- 配属直後の離職が増える
- 「自分は大事にされていない」という不信感が募る
- 本来活躍できるポジションに就けずにポテンシャルが埋もれる
一方で、本人と部署の相性が良いときには、
- 立ち上がりが早く、成果創出までの時間が短くなる
- 上司・同僚との関係が良くなり、心理的安全性が高まる
- 中長期的なキャリアの軸が見えやすくなる
など、大きなプラスの波及効果が生まれます。
近年はソフトバンクなどが、人材と部署の「性格マッチ率」を可視化し、ピープルアナリティクスによって配属の意思決定を支援する取り組みも始めています。感覚や経験だけに依存せず、「データと理論の両輪で配属を考える」ことの重要性は、確実に高まっています。
2. マッチング理論とは?──「選ぶ」と「選ばれる」を同時に設計する
マッチング理論は、ざっくり言えば「人と人」「人と組織」など二つの集団を、双方の希望や条件を踏まえて“うまく組み合わせる”方法を考える理論です。
代表的な応用例としては
〇研修医と病院のマッチング
医学部卒業後の研修先病院を、医師側と病院側の希望をもとに決める仕組み。日本でも必修臨床研修制度の導入とともに、マッチング制度が導入されました。
〇学校選択(学校と生徒のマッチング)
公立学校の学区自由化などで、志望校と生徒を希望と優先順位に基づいて組み合わせるケース。
〇腎臓移植のペアマッチング
ドナーとレシピエントの血液型・抗体などの条件を考慮しながら、複数のペア間で臓器交換を行う仕組み。
こうした事例に共通するのは、「単に点数の高い順に割り当てる」のではなく、
- 各参加者の希望の順位
- 募集側の受け入れ可能人数(定員)
- 地域バランスや下限人数などの制約
まで含めて、“ルール(メカニズム)そのもの”を設計していることです。この「ルールを科学的に設計する」という発想が、マーケットデザインと呼ばれる研究分野につながります。
3. 社会実装の具体例:人事領域でも始まっている
マッチング理論は、すでに人事領域でも実証・実装が進んでいます。
〇3-1. 新入社員の配属マッチング
ある製造業企業では、研究機関と協働し、マッチングアルゴリズムを用いて新入社員と配属部署のマッチングを行っています。
- 事前に部署が業務内容をプレゼン
- 新入社員が自己PRを行い、双方が希望順位を提出
- マッチング・アルゴリズムが配属案を生成
その結果、部署・新入社員・人事の三者にとって納得度の高い配属ができ、人事の工数削減にもつながったと報告されています。
〇3-2. 自律的キャリア形成を支える配属制度
東京大学マーケットデザインセンターは、シスメックス社と共同で、マッチング理論を活用した配属制度設計に取り組んでいます。新入社員が自ら希望を表明し、部署側も希望を持つような「双方向の選び合い」に基づく配属プロセスを設計することで、自律的なキャリア形成を支える狙いがあります。
〇3-3. 人材×部署の「相性スコア」を用いた配置DX
ソフトバンクでは、性格特性や行動データをもとに、人と部署の「マッチ率」を算出し、配属の判断材料として活用しています。あくまで最終判断は人事や現場が行いつつ、データ分析が「見落としがちな相性」や「バイアス」を補正する役割を果たしています。
これらの事例は、「配属は勘と経験で決めるもの」という前提を見直し、理論とデータを組み合わせることで、より納得感の高い配属が実現しうることを示しています。
4. 代表的なマッチング・アルゴリズム
ここからは、配属最適化の核となるマッチングアルゴリズムを、できるだけ専門用語なしでご紹介します。
〇DAアルゴリズム(Deferred Acceptance:受け入れ保留方式)
最も有名なのが、DAアルゴリズム(ゲール=シャプレイのアルゴリズム)です。
イメージとしては、
- ➀学生(あるいは社員)が、第1希望の学校(部署)に「応募」する
- ②学校(部署)は、応募者を自分の希望順に並べ、定員内の人を「仮受け入れ」、他は一旦「お断り」
- ③お断りされた人は、第2希望に応募し直す
- ④これを、誰も応募先がなくなるまで繰り返す
というものです。最終的に得られる組み合わせは、「当事者同士がこっそりペアを組み替えることで、互いに得をする余地がない(=安定している)」という性質を持ちます。
特徴的なのは、
- 一方(例えば学生側)にとっては、「本音の希望を出した方が得」になるよう設計できる
- 安定性が高く、後から「不公平だ」と言われにくい
という点です。研修医マッチングや学校選択制度で広く使われており、人事の世界でも配属問題に応用されています。
〇トップ・トレーディング・サイクル(Top Trading Cycles:TTC)
TTCアルゴリズムは、もともと「住宅の交換問題」から生まれた手法で、学校選択や臓器交換にも応用されています。
直感的には、
- それぞれの人が「一番行きたい相手」を指さす
- 同時に、各部署も「一番来てほしい人」を指さす
- 指さしが輪(サイクル)になったところから、マッチングを確定していく
というイメージです。「お互いに一番を指名し合った組み合わせ」から優先的に確定していくため、効率の良い(全体の満足度が高い)組み合わせを見つけやすいという利点があります。
〇最大重みマッチング(割当問題)
もう少しシンプルな枠組みとして、「スコアに基づいて全体の満足度を最大化する」タイプのアルゴリズムもあります(ハンガリアン法などが有名です)。
- 各「人 × 部署」の組み合わせに、相性スコア(例:0〜100点)を付ける
- 「定員」「勤務地」「スキル条件」などの制約を満たしつつ、合計スコアが最大になる組み合わせを探す
という形で、人事・配属問題を解きます。この方法は、
- スコアがきちんと設計できれば、解釈が分かりやすい
- 「売上への貢献」などのビジネス指標も組み込める
といった実務的なメリットがあります。
5. マッチング理論 × ピープルアナリティクスで何ができるか
マッチング理論だけでは現場では動きません。一方、データ分析だけでも、「どう組み合わせればよいか」というルール設計までは踏み込めません。MyStoryでは、この二つを組み合わせて「配属の仕組みそのもの」を再設計することを重視しています。
〇データから「互いの希望」と「相性」を構造化する
配属最適化では、次のような情報を整理していきます。
個人側
- スキル・経験(職務経歴、人事評価、資格など)
- 性格・価値観(サーベイ、アセスメント)
- 働き方の希望(勤務地、残業許容度、リモート志向など)
- キャリア志向(専門職志向、マネジメント志向 等)
部署側
- 求めるスキル・経験
- チームの雰囲気・文化(挑戦志向か、堅実志向か 等)
- 業務量や残業時間の水準
- 将来の事業ポートフォリオ上の役割
ピープルアナリティクスでは、これらの情報を統合し、「どのような人が、どのような部署で高い成果・高いエンゲージメントを示しているか」というパターンをデータから抽出していきます。そのうえで、
- 人 × 部署ごとの相性スコア
- 個人・部署双方の希望順位
- 「この人はこの部署には絶対に配属しない」などのハード制約
を数値化し、マッチング理論の枠組みに載せていきます。
〇シミュレーションで配属案を比較する
マッチングモデルを構築すると、次のような問いに答えやすくなります。
- 「本人の希望をあと1つ多く叶えると、部署側の満足度や業績への影響はどう変わるか」
- 「特定の部署に“人気が集中”した場合、公平性を保ちつつどう割り振れるか」
- 「地方拠点の人員確保という制約を入れても、離職リスクを上げずに配属できるか」
実際、研修医マッチングや学校選択制度の設計では、こうしたシミュレーションを繰り返しながら、現実の制約に合ったマッチングルールを作り込んでいます。配属も同様で、「ひとつの正解」を探すというより、複数の配属シナリオを比較検討するための“思考実験の土台”としてマッチングモデルを活用できます。
〇公平性・納得感・多様性を組み込む
近年の配属では、「効率」だけでなく、
- 特定属性への偏りがないか(ジェンダー、年齢など)
- 育成機会の機会均等が保たれているか
- 本人の意思がどこまで尊重されているか
といった公平性・納得感・多様性の観点も不可欠です。マッチング理論はもともと、「誰かが得するために、誰かが極端に損をする」状態を避けることを重視しており、制約付きマッチングの研究では、地域枠や最低採用数など、現実の制約を組み込む方法も議論されています。
ピープルアナリティクスの指標設計と組み合わせることで、
- 「全体としての成果」と「個人の納得感」のバランス
- 「短期的な効率」と「中長期的な育成・パイプライン」
を両立させた配属ルールをデザインすることが可能になります。
6. MyStoryの配属最適化支援の特徴
最後に、MyStoryがどのようなスタンスで配属最適化を支援しているかを整理します。
〇特徴1:経済学とピープルアナリティクスを掛け合わせた設計
MyStoryは、マッチング理論・マーケットデザインといった経済学の理論と、人事データ分析・サーベイ設計・統計モデリングなどのピープルアナリティクスを組み合わせて、「どのような配属ルールが、その会社にとって望ましいか」を一緒に考えていきます。単に「アルゴリズムを導入する」のではなく、
- そもそも何を「適材適所」とみなすのか
- 会社としてどのようなキャリア観・人材ポートフォリオを目指すのか
といった人事戦略の前提から対話し、モデルに落とし込んでいきます。
〇特徴2:現状データの“読み解き”からスタート
多くの会社では、すでに以下のようなデータが蓄積されています。
- 人事評価・昇格履歴
- 部署異動履歴
- 勤怠・残業データ
- エンゲージメントサーベイ結果
- 保有スキル・資格情報 など
MyStoryでは、まずこうしたデータを統合し、
- 「どのような配属・キャリアを歩んだ人が、高い成果やエンゲージメントを示しているか」
- 「ミスマッチが起きやすい部署・職種はどこか」
- 「離職につながりやすい配属パターンは何か」
といった“今ある配属の暗黙知”を可視化します。そのうえで、将来の配属ルール設計に使える形に整理していきます。
〇特徴3:アルゴリズムは“ブラックボックス”にしない
マッチングアルゴリズムは便利ですが、現場から見ると「何をやっているか分からないブラックボックス」に見えがちです。MyStoryでは、
- マッチング・アルゴリズムのロジックを、人事や現場にも伝わる日本語で解説する
- 「どの条件を重視した結果、この配属案になっているのか」を可視化する
- DA方式や最大重みマッチングなど、複数の候補ルールを比較検討してもらう
といった工夫を行い、現場と一緒に“納得の配属ルール”を作ることを大切にしています。
〇特徴4:シミュレーションと小さな実験から導入する
いきなり会社全体の配属をアルゴリズムで決める必要はありません。
- 新入社員の一部の配属
- 特定職種の配置換え
- 希望調査を組み込んだ社内公募
など、小さな範囲でのシミュレーションとトライアルから始めることで、
- 「どの程度、満足度や成果が変わるのか」
- 「どの制約条件がボトルネックになっているのか」
- 「現場の納得感を高めるには、どの説明が効くのか」
を検証しながら、徐々にスケールさせていくことができます。
〇特徴5:配属後のモニタリングまで含めたPDCA
配属は決めて終わりではありません。MyStoryでは、配属後の
- エンゲージメントの変化
- パフォーマンス指標の変化
- 離職・異動の動き
などを追跡し、マッチングモデルの前提や重み付けをアップデートしていくことも重視しています。これにより、「配属 → 検証 → ルール修正 → 次の配属」というPDCAサイクルを回し、企業ごとの文化や戦略に合った“進化する配属モデル”を作っていくことができます。
「なんとなくの配属」から卒業するために
人事の現場では、配属はどうしても「時間との戦い」になりがちです。そこでは、経験と勘が重要な役割を果たしてきましたし、それ自体を否定する必要はありません。一方で、経済学のマッチング理論やマーケットデザインの知見、そしてピープルアナリティクスを組み合わせることで、
- 配属の考え方を、より透明で再現性のあるものにする
- 本人と部署の双方にとって“納得度の高い適材適所”を実現する
という新しい選択肢が生まれています。MyStoryでは、こうした理論や国内外の実践事例で得られたノウハウをもとに、
各社の状況に合わせた「配属最適化」の設計と実装を支援しています。
「配属を、もう少し科学的に・公平に・納得感高くしたい」もしそう感じていらっしゃるようであれば、まずは今あるデータと現状の配属プロセスを一緒に棚卸しすることから始めてみませんか。
【参考】MyStoryの『ピープルアナリティクス』サービス
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