ストレートライニングとは?調査データの品質を保つための検出法

ストレートライニングって何?
アンケートで、同じ形式の質問がずらっと並んでいる表(マトリクス形式)に出会ったことはありませんか?たとえば「この会社は親しみやすい/信頼できる/活気がある…」といった15個の項目について、それぞれ5段階で選ぶような設問です。
このとき、全項目にまったく同じ選択肢だけを機械的に並べて回答してしまうパターンがあります。これをストレートライニングと言います。ほぼ同じだけれど、1つだけ違う選択肢を混ぜて“注意して答えてますよ”と見せる回答はニア・ストレートライニングと呼ばれます。
ストレートライニングが起きると何が困るのか。ざっくり言うと「データが本音を反映していない可能性が高い」からです。
特にWeb調査では、スマホやPCで一気に回答を終わらせたい人が、深く考えずに同じ列を“一直線に”クリックし続けることがあります。これは調査業界では努力の「最小限化」=とりあえず最低限だけ答える行動として知られています。これは、決して珍しい現象ではありません。実際、ある企業イメージ調査では、15項目からなる印象評価の質問に対して、1割〜2割近い人がストレートライニング/ニア・ストレートライニングで回答していたという報告もあります。
つまり「サンプルサイズ1,000人の調査をやりました」と言っても、そのうち100〜200人分は、本気で考えていない“雑な回答”の可能性があるということです。この差を放置したまま平均値や相関を分析してしまうと、見えるはずの差がつぶれてしまい、意思決定を誤らせます。
MyStoryの『リサーチアドバイザー』サービスでは、このストレートライニングを必ず検出・評価します。なぜなら、ここを見ないまま「社員サーベイを分析しました」「エンゲージメントが●●点です」と言ってしまうのは、経営意思決定レベルでは危険だからです。
「真面目に ‘全部同じ’ を選んだだけでは?」というよくある誤解
よくある反論として「だって本当に全部“どちらともいえない”と思っただけかもしれないでしょ?」という意見があります。これは重要な視点です。MyStoryも“すべてのストレートライニングは不正回答だ”とは扱いません。実際、「どちらともいえない」「まあ普通」という評価が本音の場合もあります。特に、まだ接点の薄いブランドや、よく知らない部署/制度に対しては、明確な好き嫌いがそもそもない、ということは普通にあります。
ただし、いくつかの兆候が重なると、統計的に「これは手抜き回答の疑いが濃い」と判断できます。代表的な兆候は次のとおりです。
- 中間選択肢(例:「どちらともいえない」)が不自然に並ぶ
ストレートライニングは極端な選択肢「非常にそう思う」「全くそう思わない」ではなく、中間選択肢で表れることが一般的です。
→ これは「安全で無難なボタンだけ押して早く終わらせたい」行動と相性がいいからです。 - 回答時間が極端に短い
15問分の印象評価を本気で読み、1問ずつ比較しながら考えると、それなりの時間がかかります。ところが、ストレートライニングで一直線に回答した人の回答時間は、そうでない人に比べて10秒以上短いなど、明らかに“飛ばしている”ケースが見られます。
→ これは「内容を読まずに同じ列を連打している」サインの一つです。 - 同じ人が、別の設問でも同じような一直線回答をしている
「そのブランドだけよくわからなかった」のではなく、別カテゴリの質問(たとえば仕事満足度や価値観の質問など)でも毎回ほぼ一直線、という人もいます。これは個人側の“回答スタイル”としての最小限化傾向だと考えられます。
これらの兆候がそろう場合、回答の質そのものに懸念がある、と判断できます。MyStoryでは「単に全部同じを選んだ=即削除」とはしていませんが、「回答が信頼できるかどうか」を定量的にスコア化し、後続の分析で扱い方を変えます。
ストレートライニングが放置されると何が起こるか
ストレートライニングを放置すると、次のようなバイアスが生まれます。
- 差が埋もれる(フラット化する)
たとえば「部署Aは“上司との信頼関係”が高いが、“成長機会”には課題がある」といった本来の凹凸が、全部“ふつう”に丸められてしまいます。結果として、改善すべき課題が見えづらくなります。 - エンゲージメントが過小評価/過大評価される
一部のいい加減回答が「どちらともいえない」で埋まると、全体の満足度スコアが人工的に平均へ引っ張られることがあります。そうすると、本当に危険信号が灯っている組織が平坦に見え、優先順位づけを誤ります。 - 「この施策で満足度は上がったか?」の検証が歪む
施策導入前後で数字を比較したつもりが、実は前後で“いい加減回答の比率”が違うだけだった…という現象も起こりえます。これは人事・組織開発の効果測定を根本から狂わせます。
経営会議や労使協議の場にレポートを出すとき、この歪みは見過ごせません。だからMyStoryでは、従業員サーベイや会員向け調査の集計納品時に、ストレートライニング由来のリスクを必ず明示します。「この数値はこういう傾向の回答を除外した上で算出しています」といった形で、意思決定に耐えるかたちに整えます。
ストレートライニングは“誰のせい”なのか?
ここもよく誤解されます。「やる気のない回答者が悪い」として片付けたくなるのですが、実際にはそう単純ではありません。研究知見を見ると、ストレートライニングの発生にはいくつかの要因が絡みます。
- 回答者本人の特性(「とにかく早く終わらせたい」スタイルかどうか)
- 調査の後半に行くほど集中力が落ちる、疲労が溜まる
- スマホなど小さな画面での連打操作のしやすさ
- そもそもそのテーマに明確な意見がない(イメージが薄い企業・部署など)
つまり、これは“怠慢”だけの問題ではなく、調査設計や提示方法の問題でもあるんです。MyStoryでは、調査票レビューやサーベイ設計の段階から
- 同じ形式の質問をだらだら連続させない
- 回答負荷の高いマトリクス形式の設問を必要以上に並べない
- 「どちらともいえない」を置くなら、その意味を明確にする(本当に中立か?判断回避か?)
- 回答を急ぎすぎる人に、途中で注意喚起を出す
など実装レベルの提案も行います。これは従業員サーベイでも会員向けアンケートでも同じです。
MyStoryはストレートライニングをどう扱うのか(実務フロー)
MyStoryの『リサーチアドバイザー』サービスでは、ストレートライニングを「検出→判定→活用制御」という3ステップで扱います。実際の流れを簡単に紹介します。
1. 検出する
- マトリクス形式の設問について、同一列を連続で選んだ回答者を抽出
- 「ほぼ一直線(ニア・ストレートライニング)」も拾う
- 回答時間、スクロール・クリックのパターン、中間選択肢への極端な集中なども併せて見る
→ 単なる“慎重な中立”なのか、明らかに“飛ばしている”のかを切り分けます。
2. 判定する
- 「この回答者は不真面目だから全部捨てる」という乱暴なことはしません
- 代わりに、分析テーマごとに“信頼度フラグ”を付けます
例:エンゲージメントの因果関係を推定する回帰モデルからは除外するが、全社平均値の参考値としては残すetc.
これは、「人事が意思決定に使う数値」「現場向けのフィードバックに使う数値」「役員向けの経営指標として使う数値」は同じでなくていい、という考え方です。分析目的ごとに扱いを最適化します。
3. 活用を制御する
- 組織比較や部門ランキングなど“評価につながる”用途では、明らかに最小限化の疑いが強い回答を重み付けで下げる/除外する
- 逆に「現場のモヤモヤや温度感をざっくり知りたい」用途では、あまりに厳しく除外しすぎない
→ これにより、「現場に返したい示唆」と「経営判断に耐える証拠」の両方を両立させます
ストレートライニング対策は“現場の働きやすさ”にも効く
最後に、これを「ただの品質管理」とだけ捉えてしまうのはもったいない、という話をさせてください。従業員サーベイの世界では、調査結果が昇進・評価・組織再編に影響することもあります。だからこそ、社員側には「正直に書いてもどうせ聞いてもらえない」「とりあえず真ん中で流しておこう」という諦めが生まれやすい。ストレートライニングは、その諦めのシグナルでもあります。
MyStoryは、単に“不良回答を弾く”だけではなく、
- 回答しやすい聞き方に変える
- 「回答しても意味がある」という実感を返す(サーベイ→即アクション設計まで含める)
- 集計ロジックを経営側にも現場側にも透明にする
まで含めて、人事・組織開発のパートナーとして伴走します。ストレートライニングは「面倒くさいチェック項目」ではありません。
それは、サーベイが“本音をすくえているか”“データが意思決定に耐えうるか”を測る心電図のようなものです。
もし今、あなたの会社の従業員サーベイが「スコアは出しているけど、結局アクションにつながらない」「部署間比較が信用できない」という状態なら、その一因はストレートライニングを含む“回答の質”を見ていないことかもしれません。MyStoryの『リサーチアドバイザー』サービスでは、単に集計を代行するのではなく、こうした回答品質の診断から、設問設計・調査運用・結果の経営活用まで一体で支援します。調査は「聞いておしまい」ではなく、「変えるための道具」になるべきだからです。
【参考】MyStoryの『リサーチアドバイザー』サービス紹介ページ
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