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用語解説2025/05/04キーワード: 計量経済学、逆ミルズ比、打ち切りデータ、切断データ

「買いたいけど買えない」をどう分析する?~トービット・ヘーキットモデルを学ぶ~

「買いたいけど買えない」をどう分析する?~トービット・ヘーキットモデルを学ぶ~

はじめに:「買わない」ではなく「買えなかった」かもしれない


前回のコラムでは、ロジットモデルとプロビットモデルを使って、「買う or 買わない」という2択の意思決定をどうデータから読み解くかを解説しました。しかし、現実にはもっと複雑なケースがあります。

・商品に興味はあったが、在庫がなかった
・申し込みページまでは行ったが、価格を見て離脱した
・「買いたいけど予算がない」ために諦めた

このようなケースでは、「買わなかった」ことは観測できますが、「本当は買いたかったのかどうか」まではわかりません。今回のテーマであるトービットモデルとヘーキットモデルは、こうした「観測できない意思決定」「制約されたデータ」を分析するための強力なツールです。

ロジット/プロビットとの違いは?「切り捨て」や「観測制限」に対応できるかどうか


ロジット・プロビットモデルは、「ある人が商品を買うかどうか(0か1か)」を説明変数(年齢、性別、価格など)をもとに予測するモデルですが、トービット・ヘーキットモデルはこうしたシンプルな2択だけでは対応できない状況に使われます。

トービットモデル:値が「途中で切れている」データに強い

たとえば、「ある商品の支出額」を分析したいとします。しかし、実際のデータには支出0円がたくさんある。これは「買わなかった」からです。このとき、単純に0円も含めて回帰分析(OLS)してしまうと、以下のような問題が起こります。

・本当は「買いたいけど買えなかった」人も0円に含まれてしまう
・実際の支出行動の傾向が正しく推定できなくなる

トービットモデルでは、「購買金額は連続的な潜在値として存在しているが、0より小さい値は観測されない(=切り捨てられる)」という前提でモデルを構築します。言い換えると

・「本当は支出する意思があったけれど、観測上は0に見える人」も考慮に入れて分析できる
・切り捨てられた部分を補正しながら、より正確に購買意欲や支出傾向を推定できる

例として、コンビニコーヒーの購入額(0円~500円)を分析したいときに、「0円」のデータが多く含まれる場合、トービットモデルは「買いたかったけど買っていない」人の可能性も加味して支出の傾向を推定することが可能です。

打ち切りデータのグラフ



ヘーキットモデル:「観測されるのは買った人だけ」問題に対応

一方、ヘーキットモデルが活躍するのは、次のような状況です。

・購入者の単価や購入個数はわかる
・しかし「購入しなかった人の情報」は観測されていない

このとき、「見えているデータだけ」で回帰分析すると、分析対象が偏っているため、バイアスのある結論になってしまいます。ヘーキットモデルは、「選ばれた人(=購入した人)だけが観測される」状況を選択バイアスと捉え、2段階で分析を行います。

  1. 選ばれる確率(購入するかどうか)をプロビットモデルで推定
  2. その後の金額や数量を補正しながら回帰分析

これによって、「買わなかった人が見えていないことによるバイアス」を補正することができます。

2段階推定のグラフ

トービットとヘーキットの使い分け:どちらが適切かは「データの観測状況」で決まる


モデル

向いているケース

特徴

トービットモデル

金額や数量が0で"打ち切られて"いるデータ

負の値は観測されないという前提

ヘーキットモデル

「買った人」しかデータがない場合

選択バイアスを補正しながら推定


具体例で比較

・トービットモデルが向いているケース:アンケートで「1ヶ月の外食費(0円含む)」を集計 → 0円も含めた支出傾向を補正
・ヘーキットモデルが向いているケース:ECサイトの購買単価(購入者のみのデータ) → 「買わなかった人」を考慮して平均単価を補正

まとめ:見えない行動まで読み解くための統計モデル


トービットモデルもヘーキットモデルも、データに「見えない制限」がかかっているときに力を発揮します。

・観測されない購買意欲
・観測されない非購入者の行動
・「0円」に隠れた真の支出意欲

これらを補正し、より正確なマーケティング施策や商品戦略に役立てることができます。

おわりに


MyStoryでは、ロジットやプロビットだけでなく、トービットモデルやヘーキットモデルも活用し、「なぜ買わなかったのか?」「誰がどれだけ支出したかったのか?」といった見えづらい行動の分析を支援しています。ご関心のある方はぜひ気軽にお問い合わせください。

執筆者
作田
株式会社MyStory マーケティングチーム コミュニケーションG
MyStoryのコーポレートサイトや広報・PR関連のコンテンツの企画を担当
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