近年、「NFT」や「Web3」という言葉を耳にする機会が急速に増えました。聞いたことはあっても、「詳しくはよくわからない」、「自分に関係あるの?」という方も多いかもしれません。NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)は、唯一無二の価値を持つデジタルデータのことです。ブロックチェーンという技術を用いて、「このデータの持ち主は誰なのか」を改ざん不可能な形で記録できるのが特徴です。
たとえば、コピーが無限にできてしまうデジタル画像に、「本物」の証明書をつけて唯一の作品として取引できます。画像や音楽、ゲームアイテムだけでなく、チケット、メンバー証明、参加証などあらゆる“デジタルの持ち物”がNFTになりうる時代が来ています。こうしたNFTの特性を活かし、マーケティングの新たな可能性を広げるのが「トークングラフマーケティング」です。
従来のマーケティングは、「年齢」「性別」「職業」といった固定的な属性情報や、「Web上の閲覧履歴」、「SNSでのフォロー関係」などをもとに、ユーザーを分類・分析してきました。これに対して、トークングラフマーケティングはユーザーが保有しているNFTやトークンの種類や履歴に着目します。
ユーザーのウォレットに記録された情報から、
・どのイベントに参加してきたか
・どのクリエイターを支援しているか
・どんなジャンルに関心があるか
といった「興味・関心の証拠」を読み解き、ファンの熱量や行動履歴に基づいたアプローチが可能になります。このように、NFTやトークンを軸に構築されたネットワークの構造を「トークングラフ」と呼び、これを活用してコミュニケーション設計や広告配信を行うのが、「トークングラフマーケティング」です。
従来のWeb2.0では、ユーザーが「いいね」や「フォロー」をしても、プラットフォーム企業がその価値を独占していました。しかしWeb3.0の時代では、ユーザー自身がトークンという形でデジタルの一部を所有し、価値を享受することができるのです。このような環境では、「名もなき新人」でも、特定のNFTを持っていれば限定コンテンツに参加できたり、同じ趣味を持つ人とつながれたりします。まさに、ファンとの関係性に基づく新しいマーケティングの形がここにあるのです。
この変化は、企業側にも大きなメリットをもたらします。ユーザーの関心や行動が可視化され、オープンなブロックチェーン上で誰でもアクセス可能だからです。従来の「Cookieレス時代」に対応する次世代のターゲティング手法としても、トークングラフは非常に注目されています。
YouTube視聴証明としてのNFT活用
あるプロジェクトでは、YouTube配信の視聴者に「視聴証明NFT」を発行。このNFTを保有することで、特別なDiscordコミュニティに参加できたり、限定情報が届いたりする仕組みを導入。これにより、ファンとのエンゲージメントが深まり、ロイヤルティの高いユーザー基盤が構築されました。
リアル店舗でのBGM×NFTスタンプラリー
商業施設などでは、店内BGMに「音声透かし技術」を組み込むことで、来店者のスマホにNFTが自動配布される仕組みを構築。異なる店舗やエリアで異なるNFTを集める「NFTスタンプラリー」や、特定のNFTを持っていると限定クーポンが使えるなど、リアル×デジタルの購買体験を設計できます。
OpenSeaの利用者へのトークン還元(OpenDao)
NFTマーケットプレイス「OpenSea」の利用者に対して、取引量(=ガス代)に応じたトークン「SOS」をエアドロップした事例もあります。これにより、単なる利用者をコミュニティ参加者・オーナーへと転換することに成功しました。
飲食店におけるNFT予約席の導入
ある高級寿司店において、特定のNFTを持つユーザーに「優先予約権」を付与した事例もあります。席そのものをNFT化し、取引可能にすることで、ダイナミックプライシングやファン醸成にも貢献しています。
トークングラフマーケティングは、「誰に広告を見せるか」だけでなく、「誰とどうつながるか」というコミュニティ中心の設計が特徴です。広告を一方的に届けるのではなく、NFTを通じて
・応援の証
・参加の証明
・所属の証
を持たせ、「共通の体験を共有する仲間」としての関係性をつくる。これは従来のCRM(顧客関係管理)を超えた、ファンとの共創関係といえるでしょう。
トークングラフは、個人がどんなNFTを持っているか、どのような関係性の中にいるかを可視化します。それは、「共通点に基づく信頼関係を起点とするマーケティング」を可能にします。
これまでのように「広告を押し付ける」のではなく、「すでに興味・関心を持ってくれている人とつながる」ための橋渡し。それこそが、NFT×トークングラフマーケティングがもたらす最大の価値です。
Web3が広がるこれからの時代に向けて、企業やブランドも「誰に何を届けるか」から「誰とどうつながるか」へとパラダイムシフトを進めるべきときが来ています。
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