商品の価格を100円にしたときに1,000個売れるとしましょう。
では120円にしたら? 80円にしたら?この「価格」と「売上個数(需要量)」の関係をグラフにしたものが、需要曲線です。需要曲線がわかると、以下のような分析が可能になります。
・最も利益が出る最適価格を導き出す
・値下げ/値上げによる売上・利益へのインパクトを予測する
・顧客層ごとの価格感度(価格弾力性)を把握する
つまり、「いくらで売ればいいのか」を定量的に決めるための土台となるのが需要曲線です。
需要曲線は目に見えるものではありません。
消費者の購買行動や意識調査をもとに、「逆算して推定」します。推定方法は大きく2つに分かれます。
区分 | 内容 | 活用シーン |
---|---|---|
顕示選好法 | 実際の購買データを使って推定する方法 | 既存製品の分析 |
表明選好法 | 消費者アンケートや仮想選択調査から推定する手法 | 新製品やテスト段階の商品の分析 |
データ状況や目的に応じて、複数あるアルゴリズムから最適なものを選択する必要があります。ここでは代表的な推定手法をご紹介します。
①単回帰・重回帰モデル
ある飲料の価格と売上データから、「価格がX円上がると何本売上が減るか?」を線形で推定。
・特徴:簡単。解釈しやすい
・注意:他要因(季節、広告など)を除外すると誤差が大きくなる
②価格弾力性モデル
価格が1%上がったときに需要が何%変化するかを推定。異なる商材間でも比較しやすい。
③交差価格弾力性モデル
自社商品の売上が、競合の価格変化にどう反応するかを推定。「値下げ競争」に勝てるかの判断材料になる。
④機械学習・潜在クラスモデル
XGBoostや階層ベイズを用いれば、消費者ごとに異なる反応を分析し、セグメント別(例:学生vs社会人)の価格感度を推定可能。高精度かつ柔軟だが、「なぜこうなったか」の説明性は弱いのが課題。
表明選好法についても、主要なアルゴリズムを簡単にご紹介します。
①CVM(Contingent Valuation Methods)
「この商品にいくらまでなら払いますか?」と直接聞く方法。
・メリット:導入が簡単
・デメリット:安く答えれば得だと思われ、過小申告のバイアスが出やすい
②PSM(Price Sensitivity Meter)
「高い」「安い」「高すぎて買えない」など価格印象を聞き、最適価格帯を導出。
調査例:
・いくらから「高すぎて買えない」と思いますか?
・いくらから「安すぎて不安」と感じますか?
結果として、「消費者の受容価格帯」を可視化できます。
③コンジョイント分析
複数の選択肢(価格×スペック)から商品を選んでもらい、各要素の価値(支払意思額)を逆算する手法。
調査例:
「高速充電付きスマホ」に1万円多く払う価値があるか?
④BDM・オークション調査
実験経済学に基づく調査法。「実際に購入する可能性がある」状況で価格を答えさせ、本音の支払意思額を引き出す。BDM(Becker–DeGroot–Marschak)法ではランダム価格と比較し購入が成立するかを確認。
先日のコラム(なぜその価格に反応してしまうのか?~行動経済学で読み解く「参照点価格」の魔力~)では、人が「高い/安い」を判断する基準=参照価格が行動に与える影響をプロスペクト理論をもとに紹介しました。需要曲線は、その参照価格を超えたときに需要が急激に下がるという「心理的な壁」も含めて、反映することが可能です。
参考:なぜその価格に反応してしまうのか?~行動経済学で読み解く「参照点価格」の魔力~
・参照価格より安い ⇒ 購入確率アップ(利得領域)
・参照価格より高い ⇒ 購入確率ダウン(損失回避)
このように、価格に対する心理的な非対称性も需要曲線に現れます
本コラムで紹介したように、需要曲線を推定することで
・「この価格なら、これくらい売れる」がわかる
・「誰に、いくらで売るべきか」が明らかになる
・「利潤最大化」や「在庫最適化」もデータで設計できる
つまり、プライシングの意思決定が「なんとなくの勘」から、「データに基づく確信」へと進化します。
MyStoryでは、顕示選好法・表明選好法の両面から、需要曲線の可視化と最適価格の設計をサポートしています。「どんな調査をすればよいか分からない」、「売上データはあるが、分析できていない」。そんなお悩みがあれば、ぜひご相談ください。