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データ分析
2026/09/20
キーワード:合併シミュレーション、M&A、需要モデル、価格弾力性、競争分析、需要予測、プライシング、カニバリゼーション

M&A・企業合併で価格や売上はどう変わる?需要モデルによる合併シミュレーションを解説

M&A・企業合併で価格や売上はどう変わる?需要モデルによる合併シミュレーションを解説

企業のM&Aや事業統合を検討するとき、経営上の重要な問いの一つが、「この2社が一緒になったら、市場では何が起きるのか?」という問題です。一般的には、売上高、市場シェア、利益率などを見ながら合併後の事業規模を考えることが多いでしょう。

たとえば、市場シェア20%のA社と15%のB社が合併すれば、「合計35%の企業になる」と考えることはできます。しかし、実際の市場はそれほど単純ではありません。A社の商品を買えなくなった消費者の多くがB社へ移る市場なのか、それともC社やD社へ移る市場なのか。A社とB社の商品がよく似ているのか、そもそも異なる顧客層を持っているのか。

こうした消費者の「代替行動」によって、合併後に企業がどの程度価格を上げられるのか、販売数量がどの程度変わるのか、そして合併によって利益が増えるのかは大きく変わります。そこで活用できるのが、消費者需要モデルを用いた「合併シミュレーション」です。

合併の影響は「市場シェアの足し算」だけでは分からない

例えば、同じ市場で商品A、商品B、商品Cが販売されているとします。商品Aと商品Bを販売する会社が合併するケースを考えてみましょう。

合併前であれば、商品Aを値上げして顧客が商品Bへ移ってしまうことは、A社にとっては単純な顧客流出です。ところがA社とB社が合併すると状況が変わります。商品Aを値上げして一部の顧客を失ったとしても、その顧客が同じ会社の商品Bへ移ってくれるのであれば、企業全体としては売上を完全には失いません。

つまり合併によって、「自社の商品同士で顧客を奪い合っていた状態」から、「一方の商品からもう一方の商品へ顧客が移っても企業全体としては回収できる状態」へ変わります。これは企業にとって、合併前よりも価格を上げやすくなる要因になります。逆に、商品Aから離れた顧客のほとんどが競合の商品Cへ移るのであれば、A社とB社が合併しても価格設定への影響は比較的小さくなるでしょう。

重要なのは、「A社のシェアが何%、B社のシェアが何%か」だけではなく、消費者がAを選ばなくなったとき、次に何を選ぶのかという需要構造なのです。

「値上げしたらどこへ行くのか」を数値化する

この関係を分析するうえで重要になる概念の一つが、転換率・需要転換率(Diversion Ratio)です。

例えば商品Aを値上げした結果100人の顧客を失い、そのうち30人が商品Bへ移ったとします。この場合、AからBへの転換率は30%と考えることができます。仮に商品Bを1個販売したときの限界利益が40円であれば、商品Aで失った1人の顧客につき、「30% × 40円 = 12円」程度を商品B側で回収できることになります。合併前であれば、この12円は競合企業の利益でした。

しかし合併後には自社グループの利益になります。したがって、商品Aを値上げしたときの「顧客を失う痛み」が合併によって小さくなるわけです。この考え方を発展させたものの一つが、競争政策や企業結合分析でも利用される価格上昇圧力(Upward Pricing Pressure)です。米国の競争当局も、企業間の競争の強さを測る指標として転換率を利用し、合併によって企業の価格設定インセンティブがどう変化するかを分析しています。

消費者需要モデルで「代替関係」を推定する

もちろん現実には、すべての商品の価格を実際に変更して「値上げしたら何人が競合へ移るか」を実験することは簡単ではありません。そこで利用するのが消費者需要モデルです。

商品の価格、販売数量、市場シェア、商品属性などのデータから、「価格が1%上がると、この商品の需要はどれくらい減るのか」、「商品Aが値上げされたとき、商品B、商品Cにはそれぞれどの程度需要が移るのか」といった関係を統計的に推定します。前者は自己価格弾力性、後者は交差価格弾力性と呼ばれます。

分析には、多項ロジットモデル、入れ子型ロジットモデル、ランダム係数ロジットモデルなどを利用できます。特にランダム係数ロジットモデルでは、「価格を非常に重視する人」「ブランドを重視する人」「性能を重視する人」のような消費者間の好みの違いをモデルに組み込むことができます。

高度な需要分析では、こうした消費者の異質性まで考慮したBLPモデル(Berry・Levinsohn・Pakes型の需要モデル)が用いられることもあります。重要なのはモデル名そのものではありません。目的は、市場の中で、どの商品とどの商品がどれほど強く競争しているのかを数字にすることです。

合併シミュレーションでは何をしているのか

需要モデルが構築できれば、次に企業側の価格設定行動を組み合わせます。代表的なのは、「各企業が自社の利益を最大化するように価格を決めている」と考えるBertrand型価格競争モデルです。現在観測されている価格、市場シェア、需要の価格弾力性などから企業の限界費用を推定し、その市場でどのような価格競争が行われているのかをモデル化します。

ここまでできれば、モデル上で企業Aと企業Bを「同じ会社」に変更します。そして、もし本当にA社とB社が合併したら、利益を最大化する価格はいくらになるのかを改めて計算します。つまり合併シミュレーションは単純な予測モデルというより、「合併しなかった世界」と「合併した世界」をモデル上で仮想的につくり、その差を見る反実仮想分析と考えると分かりやすいでしょう。

その結果として、合併前後の価格、市場シェア、販売数量、売上、企業利益などを比較できます。

「合併すれば必ず値上げ」ではない

ここで注意したいのは、合併による価格上昇圧力が存在するからといって、必ず価格が上昇するわけではないことです。合併にはもう一つ重要な効果があります。それは「効率化」です。

物流網の統合、生産設備の共通化、仕入数量増加による調達コスト低下、営業組織やシステムの統合などによって、商品の限界費用が下がることがあります。例えば、需要側の分析では合併によって5%程度の値上げ圧力が生じていたとしても、合併によって生産・物流コストが大幅に低下すれば、その効果によって価格上昇が打ち消される可能性があります。

そこで合併シミュレーションでは、「コストが変わらない場合」、「限界費用が3%低下する場合」、「5%低下する場合」など複数のシナリオを設定し、結果がどの程度変わるのかを確認することが重要です。こうした考え方は補償的限界費用削減率(Compensating Marginal Cost Reduction)にもつながります。

これは簡単に言えば、「合併による値上げ圧力を相殺するには、コストが何%下がればよいのか」を見る指標です。

価格だけでなく「消費者にとって得なのか」まで分析できる

合併シミュレーションのもう一つの特徴が、企業側の売上や利益だけでなく、消費者余剰まで評価できることです。消費者余剰とは簡単に言えば、「消費者がその商品を選べることによって得ている便益」を金額ベースで表したものです。

例えば合併によって価格が上昇すれば、企業利益が増加する一方で、消費者余剰は減少する可能性があります。反対に、合併による大幅なコスト削減が価格低下につながれば、企業利益と消費者余剰の双方が改善する可能性もあります。そのため合併シミュレーションでは、企業にとって儲かるのかだけでなく、市場全体や消費者にどのような影響を与えるのかという視点まで含めた分析が可能になります。

なお、合併シミュレーションは「未来の価格を1円単位で当てる」ためのものではなく、モデルの仮定や需要推定の方法によって結果が変わり得るため、複数の仮定を置いた感度分析を行うことが重要です。需要モデルの推定方法によって合併後の価格や消費者厚生の推定結果が大きく変わり得ることも、既存研究で指摘されています。

合併だけではない。「商品統合」「店舗統合」にも応用できる

この分析の考え方は、法的な意味での企業合併だけに限定されません。例えば企業買収後に複数ブランドを保有することになった場合

といった商品ポートフォリオの分析にも同じ考え方を利用できます。

小売・飲食などでは、店舗間の距離や移動時間を需要モデルに組み込むことで、店舗統合や店舗閉鎖のシミュレーションへ拡張することも考えられます。

例えば近隣に自社店舗Aと買収した店舗Bがある場合、Bを閉鎖したときの顧客が「店舗Aへ移るのか」「競合店舗へ移るのか」「そもそも利用をやめるのか」を推定できれば、単純にB店の売上を失うと考えるよりも現実に近い店舗統合の判断が可能になります。

M&Aの検討段階でも、「B社を買収した場合」、「C社を買収した場合」、「買収後に価格を5%変更した場合」など複数のシナリオを比較することで、買収後の競争構造まで含めた事業性評価へつなげることができます。

合併シミュレーションに必要なデータ

必ずしも膨大な個人単位の購買データが必要というわけではありません。分析対象によって異なりますが、基本となるのは、商品・ブランド別の価格、販売数量または市場シェア、商品属性、企業ごとの商品保有関係、原価または粗利率などです。

さらに店舗別・地域別・時点別のデータが存在すれば、「地域によって競争関係が違う」「価格変更への反応が季節によって違う」といった構造まで分析できます。実購買データだけでは消費者の代替行動を十分に把握できない場合には、選択型コンジョイント分析などのアンケートを組み合わせ「この商品がなければ何を選ぶか」という選択行動そのものを計測する方法もあります。

重要なのは、最初から特定の分析手法を当てはめることではありません。自社が知りたいのが「合併後の価格」なのか、「売上」なのか、「ブランド統合」なのか、「店舗再編」なのかによって、必要な需要モデルやデータ設計は変わります。

MyStoryは消費者需要モデルを用いた合併・事業統合シミュレーションの実績が多数あります!

株式会社MyStoryは、統計学・ミクロ計量経済学・産業組織論の考え方を活用した需要分析・価格分析を行っています。単純な売上予測だけではなく、消費者需要モデルを構築することで、「価格を変えたら需要はどう変わるのか」、「競合からどの程度需要を奪うのか」、「自社商品間でどの程度カニバリゼーションが起きているのか」といった市場の競争構造そのものを分析します。

そのうえで所有するブランドや商品の組み合わせを変更し、合併・買収・ブランド統合・商品統廃合・店舗統合などの反実仮想シミュレーションを行うことで、価格、販売数量、市場シェア、売上、利益、消費者余剰などへの影響を定量化することが可能です。

といった課題がございましたら、ぜひご相談ください。

合併の価値を考えるうえで重要なのは、企業同士を単純に足し合わせることではありません。合併によって「消費者の選択」と「企業の価格設定」がどう変わるのか。需要構造までモデル化することで初めて、合併後の市場をデータから考えることができるのです。

【参考】マーケットシェア推定サービス
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【参考】プライシングサービス
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